ある環境系の製品を作っていた小さなメーカーの話だ。
そのメーカーは以前はちょくちょく新聞に取り上げられる程、話題になった商品を製造していた。
厚さ1cm以上もある、少し黄ばみ始めた新聞のスクラップブックが、実際に話題にはなったことを証明していた。
しかし今では、そのヒット商品の栄華のかけらも見受けることはできなかった。
独自の工場も既になく、狭くなった事務所に数名の社員と共に日々研究開発をしていた。
新商品は既に開発されていた。
しかし、売れなかった。
客観的にみれば、一度成功体験を積んだ商品の現在の市場のニーズに合わせた進化版だから、売れないはずはない。一度大きな成功体験を積んでいるから、その道筋も十分に理解している。
しかし、売れない。
売れない、と言うか何も行動しないのだ。
そんなバカな!と思うかもしれない。
しかし事実、営業活動を一切行わない。従業員は黙々と研究に没頭している。
営業活動どころか、ウェブサイトも作らず、存在を世間から消しているようだった。
ある時、なんで営業活動を行わないのか、社長に聞いてみた。
「いやあ、大丈夫。いい商品を作っているから、そのうちあっち(お客様)から来るよ。」
とうそぶいていた。
しかし従業員に聞いてみると意外なことがわかった。
「社長は、怖いんです。表に出ることが。」
煙草に火をつけながら、その社員は言った。
「一度マスコミに沢山取り上げられたじゃないですか。その時は、ほんとにお客様の方から頼み込んできましたよ。」
「でも、いいことばかりじゃなかったんです、、、。」
紫の煙が部屋を満たして行く中、社員は話を続けた。
「甲子園球児がプロ野球に入ると、親戚が増えるって言うじゃないですか。いや、ほんとに増えるわけじゃなくて、付き合いのなかった人まで、自分は親戚だと言って近寄ってくる。それと似たような状況になったんですよ。新聞に取り上げられれば、有名にもなるし、儲かっているんだと人は思う。たかってくる人も多かったんですよね。それに、、、」
「有名になるってことは味方やファンも多くなるけど、同時に敵も増える。根拠のない誹謗中傷なんかが増えたんですよね。社長はそれが嫌になっちゃたんですよね。昔は、人の前に出るの大好きだったけど、それからは『いい商品さえ作っていればお客様は向こうからくる』ってなっちゃった。多分、自分を守るためにそういうしかないんでしょうね。それを知っているから、気の毒なんですよ。」
そう聞いたのだが、同情はしても、賛成はできなかった。
認知度を上げる活動は、確かにファンも作るし、一方で多くの敵も作る。
考えがあい入れない者は、どんな世界にもいる。しかし、事業を行っている限りは、砂漠の中の砂の一粒でしかなく、誰にも認知されていない自社を認知してもらうために徹底的に動かなければならない。
認知されること、またはマーケティング活動を辞めることは事業の死を意味する。
あなたは、衆目を恐れず外にアピールし続けているだろうか?
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